東京高等裁判所 昭和58年(ネ)1095号 判決
借地法一条にいう建物の所有を目的とする地上権または賃借権とは、賃借人の土地使用の主たる目的がその地上に建物を所有することにある場合を意味し、賃借人がその地上に建物を建築しこれを所有しようとするときでも、それが土地使用の主たる目的ではなく、従たる目的にすぎないときは、借地法一条所定の賃貸借に該らないと解するのが相当であるところ、前記認定の事実によれば、本件賃貸借契約は、本件土地及び本件建物(一)を一体として自動車教習所施設として賃貸するものであり、交通法規等の教習をするために必要な校舎等としては、すでに藤次の所有にかかる本件建物(一)が存在し、本件土地の大部分は主として自動車運転練習コースとして使用することを目的とするものであったことが認められるから、本件賃貸借契約の主たる目的が借主において本件土地上に建物を所有することにあったものということはできない。また、右事実及び前記認定の本件土地に占める本件建物(二)の割合を考慮すると、その建築について藤次の承諾があったとしても、これをもって、本件賃貸借契約について建物所有を目的とすることに変更する旨の合意がなされたものということもできない。したがって、本件賃貸借契約の期間を六年とする約定が、借地法の適用により無効とされるべき理由はない。
さらに、以上認定の諸事実によれば、本件土地は、その場所で従来行っていた自動車教習所の経営をやめた藤次が、順次売却して他の事業の資金に充てることを予定して計画を進めていたところ、第一審被告田村の、地主側の右の目論見を承知したうえでの熱心な要請により、現実に右土地を換価する時期を見込んでそれまでの短期間という前提のもとにこれを賃貸するに至ったものであって、その地上に存した本件建物(一)は、同被告が本件土地を現況のままで引渡しを受けたうえで従前と同様に自動車教習所用地として利用する予定であったところから、本件土地と一体として賃貸借の対象とされたまでのものにすぎず、大部分が自動車練習コースによって占められている本件土地の利用から独立したものとして右建物を利用することは、全く考えられてはいなかったことが明らかであり、また右建物は、客観的にみても、前掲各写真並びに弁論の全趣旨に徴すると、自動車教習所の付帯施設としてごく一般的な、比較的簡易な建築物であって、広大な本件土地の利用価値に比し、右建物それ自体の利用価値にさほどの意味を認めうるようなものではないことを窺うことができる。してみると、本件建物(一)を賃貸借の目的物の一つとして明示している以上、その賃貸借関係について借家法が適用されるべきことを当然には否定しえないにしても、貸主側の上述のような事情を、換言すれば、期間満了時に時価で借主側が本件土地を買取る場合は別として、ひきつづき本件土地を所有したまま借主側で自動車教習所として営業を継続することを許容する意向は、右土地の換価を前提として事業資金計画を進めている貸主側には全くないことを、借主側においても十分承知したうえで、折衝のすえ六年の期間を合意し、本件土地を本件建物(一)等の地上施設と一体として、自動車教習所を営むことを唯一の目的に賃貸借契約が締結されたものというべき本件の如き場合は、右契約に基づき借主の取得する目的物の利用権は、建物を目的とする部分を含め、約定にかかる短期の期間内に限っての一時使用のための賃借権であることが明らかな場合に該るものというべく、本件建物(一)の賃貸借関係に限って(まして本件土地を主体とする一体としての賃貸借関係全体について)、賃貸借の継続を保障した借家法の規定の適用があるとするのが相当であるとは、とうてい考えられないところといわざるを得ない。
(横山 尾方 浅野)